事例:株式会社エムワン

担当コンサルタント:柴田佐織

会社概要

社名 株式会社エムワン
代表取締役 村井俊之
本社所在地  〒515-0061 三重県松阪市黒田町109
設立 平成12年11月21 日 
従業員数 58名
売上高 7億6337万円(2015年実績) 
事業所 三重県6店舗、大阪3店舗、北海道1店舗(デイサービス)
事業内容 保険調剤、一般医薬品販売および在宅患者訪問サービス
URL http://m1-heart.co.jp/

株式会社エムワンでは以下のようにWLB推進に向けた取組を加速させていきました。 

WLB取組のきっかけ

30代の頃、自身のハードワークから病気になり、ワークライフバランスが実現できる企業で働きたいと考えるようになっていました。家族の病気をきっかけに三重県に帰ることになり、現在の株式会社エムワンにお世話になることになりました。 当社では長時間残業はほとんどありませんでしたが、社員の余剰人員はなく、常にギリギリで店舗運営を行っていたため、全員が平等に有給休暇を取得するのが難しく、有給を取りたくても周りに遠慮して取りにくい状態でもありました。新卒採用もほぼ女性しか応募が来ない、地方の中小企業のため大量採用は不可能という不利な中で、突然2名の女性社員から同月に妊娠報告があり、現場は「困った!」という危機感でいっぱいになりました。現場からは「中途採用してほしい」という声もあがりましたが、社長と相談し育児休暇を取得する社員さんが安心して戻ってくるには少ない人数で生産性をあげる「働き方」を見直すことがまずは先決。今の人数でなんとか復帰まで乗り切ろう!と話し合い、ちょうどその時に三重県の「ワークライフバランス推進事業」が始まり、なんと小室さんの会社が事業を担当すると知り、運命を感じて応募することにしたのです。 

カベを乗り越える

県の事業にはなんとか参加できることになりましたが、推進していく人がいない。私一人ではこの事業を乗り切ることは難しいと感じ、推進キーパーソンを社長自らにお願いしたら快く引き受けてくれたのです!しかし、現場は「中途採用したほうが早い」「人が少ないのに余計に仕事が増えるだけ」など反対意見も多く、なかなか進まない日々が続きました。また、その間に退職者も出てしまい、もう取り組みをやめてしまおうか・・・と社長と話し合 ったこともありました。 

推進してくれる仲間を見つける

育児休暇を取得する社員の方が働いていた店舗に協力をお願いし、なんとか取り組みの「一歩」が踏み出せました。その店舗は20代の女性社員が多く、休みは取りたいけれど取れない状態に実はみんなモヤモヤしていたのです。また、結婚を控えている社員もいたため、次の育児休業者は自分かもしれないという不安があったことも、真剣に取り組んでもらえたきっかけになったと思います。 

目指す方向を一致させる

1名減になっても有給が取得できるように、当初の目標は全員一致で「有給消化100%」となりました。有給を取得するためにまず何をすればいいか。カエル会議で話し合い、仕事が属人化している業務のマニュアル作成から始まりました。それを入社したばかりの新入社員に作ってもらうことにしたのです。 

全員一致で「有給取得」となった第一回目のカエル会議

全員が有給を取得するためにカエル会議であがった課題の一部
全員が有給を取得するためにカエル会議であがった課題の一部
カエル会議の様子(店舗にホワイトボードやイスはないので毎回立って実施)
カエル会議の様子(店舗にホワイトボードやイスはないので毎回立って実施)

マニュアル作成が終わったらスキルマップを作成し、全員ができる業務を一つずつ増やしていくようになりました。 

数年後のライフを考える

業務の見える化も進み、全員が共有することが出来るようになってきたので、次に「ライフロール」を使って5年後、10年後の自分自身の役割(ライフ)について考えてもらう機会をもうけました。「本当のワークライフバランスってなんだろう?」というカエル会議を実施しました。 

二人とも女性ですが、10 年後は今よりはるかに家族との時間を持ちたいという結果に!

※ライフロール 現在と数年後の割合を記入して比較
※ライフロール 現在と数年後の割合を記入して比較

ライフプランニングセミナー

ライフロールで全員が家族との時間を大切にしたいという結果になったことを受け、結婚・出産で退職した場合と、生涯働き続けた場合の生涯賃金について、今後のライフプランでどのくらいお金が必要になるのかなどの知識について理解を深めるもらうセミナーを開催。「退職せずに育児休暇を取得しながら、働き続けたほうがいい」という考え方に意識を変えていきました。 

目標を決め実行する

マニュアルが完成し徐々に取組が加速しはじめたら、目標を決めて実際に実行する段階に入りました。半年先までの予定を入れた「有給休暇消化シート」を全員が見える場所に貼付し、取得したい日をあらかじめ記入しておき、取得出来たら消していきます。 

新たな課題が発生

生産性があがり、1名減でも有給が少しずつ取得できるようになったものの、有給をたくさんもらっても何をしていいかわからない!という新たな声が出始めたのです。そこで私から「やりたいこと10リスト」を作り、カエル会議で全員が作成し、共有してもらうことにしました。 

実際にあがったリストの一部 

  • 温泉旅行
  • ライブに行く
  • おとなのぬりえをする
  • 一寸法師の桶に乗る
  • 家族と美味しいものを食べにいく
  • 三ツ星レストランに行く
  • ヨガに通う
  • 友達に会いに行く
  • セミナーに参加する
  • 洋服を買いに行く
  • エステに行く などなど

実際のカエル会議では「やりたいこと」が一人 10 個以上になりA3用紙3枚以上に!

有給は病気の時や、旅行に行くためだけに使うもの?と思い込んでいた社員の方々がほとんどだったため、遊びや旅行以外に使ってもいいんだ!という意識に変えていきました。 また、一緒に働く仲間がどんな考え方で、何に興味がある人なのかを知ってもらうきっかけにもなったと思います。
※このカエル会議が一番盛り上がった気がします! 

意識の変化

有給が取得できるようになり始めると、仕事にも徐々に変化が現れました。今まで本を読まなかった社員が本を読むようになったり、異業種交流会に積極的に出かけるようになったり。また、仕事でも結果が出せるようになりました。 

 

昨年度と比較して一般用医薬品の売上が230%UP、売上構成比が全体の45%と約半分以上の売上を占めるほど貢献できる店舗に育ってきたのです。患者様にも自分たちから積極的に声掛けするようになり、ニーズを聞きだし、指示待ちではなく、自分たちで売場展開していけるような仕事のやり方に変化していったのです。 


1年後の結果

取組を行ったこちらの店舗は、現在有給取得率が前年比で 352%と、当初の100%を大きく上回る結果となりました!また、取組前に育児休暇取得中だった社員も無事に復帰でき、今年度はなんと4名の方が出産予定となっています。 

採用活動に活かす

この結果を受け、昨年の三重県の取組を2017年卒の新卒採用の新しい戦略として取り入れることにしました。三重県の学生は「休みがきちんと取れるところがいい」という意見が多いため、ワークライフバランスの考え方をエントリー学生にダイレクトメールにて送信。3月に当社へエントリーしてくれた学生さんからの口コミもあり、4月以降もエントリー数は順調に伸び、前年比で509%のエントリー数UPに繋がりました。 

単独説明会では、スライドにワークライフバランスの考え方や、なぜこれからの企業はワ ークライフバランスが必要なのか、実際に取り組んだ店舗の例を交えて説明会で話したところ、アンケートでたくさんの学生さんから好評を頂けたのです!3月の説明会に参加してくれた学生さん達が口コミで当社のことを広めてくれたおかげもあり、さらに 4月の単独説明会は常に満席状態を維持することが出来ました。 結果、当初目標だった10名を上回る11名の採用実績が残せました! 

中小企業だからできること

ワークライフバランスに取り組むのは大手じゃないとムリと思っている経営者の方々が見えるようでしたら、ぜひお伝えしたいのは「まずは社長が本気で取り組むと決め、みなさんにコミットすること!」「中小企業だからこそすぐに取り組めて、結果も早く出せる」ということです。

しかしながら、当社も最初は取組が進まず大変苦労しました。それは真のワークライフバランスについて理解し、推進していってくれる社員が社長と私しかいなか ったからです。そこで人事として最初に行動したのは一緒に推進してくれるキーパーソンをできるだけ多く見つけること、カエル会議のたびに一人ずつの意識改革を進めていくこと。これが今回の取組が加速し成功した要因だと思っています。 

 

また、新卒採用が難しい地方の中小企業だからこそ、どこよりも早くワークライフバランスに取り組むことで、優秀な人材を多数獲得でき、優秀な社員が次の優秀な後輩を育てていくことで、新しい企業風土が自然と出来上がっていくと、今回の取組を通じて確信しています。